当時はメディアでも大問題のように取り上げられ、多くの人を不安に陥れた言葉ですが、最近ではめっきり耳にすることがなくなりました。しかし「睡眠負債」は、彗星の如く現れ、消えていった一発屋芸人のように、そう簡単に忘れてもいい問題なのでしょうか?
10年以上、1日45分以下睡眠を続けている日本ショートスリーパー育成協会の堀大輔氏の著書『睡眠の常識はウソだらけ』に、「睡眠負債」の根拠として頻繁に引用されているある実験について語った部分があります。
改めて「睡眠負債」の“問題点”を確認するために、一部抜粋して転載します(本記事用に編集部で一部改編)。
「睡眠負債」、信じるか信じないかはあなた次第。
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人間にとって生理的に一番適した睡眠時間はどれくらいなのでしょうか?
スタンフォード大学で行われた実験ですが、平均睡眠時間が7・5時間の健康な10人を無理やり14時間ベッドに入れたら、3週間後には平均8・2時間の睡眠時間に固定されたとのことです。
この実験結果から導き出された主張は、「被験者10人にとって8・2時間という睡眠時間が最適だった」という推論でした(被験者が10人しかいない実験というのも驚きです)。事実、この実験結果を引用してそのように語っている研究者がいます。
しかし、その推論は本当に信じるに足るものでしょうか?
食事を例に考えてみましょう。食べられるだけ食べた量が生理的に一番適した食事量であるはずがなく、どう考えても肥満になります。
性欲はどうでしょうか? 目の前に性行為ができる、自分の好みの人を用意されれば、何度も性行為を繰り返す人はいるでしょう。しかし、それを健全な性の活動と言えるのでしょうか。
睡眠も同じで、ベッドに強制的に入れられたときに行われる睡眠時間が必ずしも適正なものではなく、むしろ不健康につながると考えるほうが自然です。14時間もベッドに無理やり拘束された人たちと、普段どおり社会に出て活動している人の睡眠時間が同じはずがありません。環境によって睡眠時間は変わるものですし、14時間もベッドの上で生活するというのは、無理やり病人にされているといっても過言ではないでしょう。
しかし、睡眠の常識に囚われている人、スタンフォードの研究者たちは次のように考えました。
適正な睡眠時間8・2時間と、それまでの平均睡眠時間7・5時間の差である40分は、最近流行している睡眠負債だったのではないか――。
さらに、それを解消するまで3週間もかかった、睡眠負債とは現代人にとって根深い問題だ――、と論を展開するわけです。
上記のような不自然な環境で行われた実験結果をベースにして、こうした新たな主張が出てくると、正直私としてはお手上げ、さすがに匙を投げたくなるってものです。どこから突っ込んでいいものか、もうわけがわかりません。
ただ、一言だけ反論しておきましょう。そもそも、被験者は平均睡眠時間7・5時間の「健康な」10人だったはずなのですが……。

『睡眠の常識はウソだらけ』
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