はじめに より

書店には、自己啓発書があふれています。

そうした自己啓発書を読めば、
あなたの自尊心が満たされたり、
金銭的な成功を得ることができるのでしょうか。

結論から先に言ってしまえば、
この答えはNOです。

では自己啓発セミナーに出れば、
これらは達成されるのでしょうか。

この答えもまたNOです。

多くの人は、潜在的に、
自己啓発書や自己啓発セミナーには、
それぞれが求めている効果はないことを知っています。

実際に、それらの内容を全面的に信頼している人は少ない
というリサーチ結果があるのです※1。
 ※1 牧野智和『日常に侵入する自己啓発─生き方・手帳術・片づけ』
    p37-40、勁草書房、2015 年4月9日

むしろ「目新しい意見はない」といった冷静な目で、
自己啓発の内容を疑ってさえいます。

ここには希望があります。

本書が狙ねらいたいのは、そもそも本当は信頼していない
自己啓発から離れよう、距離を置こうということだからです。

もちろん、本来の意味における自己啓発とは
「自らの意思で勉強する」ことであり、
それ自体は、いつの時代にも必要なことです。

しかし、それが超自然的なアヤシイもので、
科学に立脚していない場合は、とても危険です。

本書は、そうした本来の意味における自己啓発をはずれてしまっている、
現代の日本における自己啓発ブームに警鐘を鳴らすものです。


自己啓発ビジネスというのは、
非常によくできた、歴史のある貧困ビジネスです。

そして貧富の格差(二極化)が進み、
貧困に怯おびえる人が増えるほどに儲もうかる仕組みになっています※2。
 ※2 こうした自己啓発ビジネスが危険なのは『三国志』の時代から変わりません。
   『三国志』の英雄として有名な曹操孟徳も、疫病や飢饉が絶えなかった当時
    流行した様々なオカルトの取り締まりに苦労しています。


イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズも、
現代のように様々な仕組みが揺らぐ社会において
「なにをなすべきか、どう振る舞うべきか」
という問いに、人々が惹ひきつけられやすいことを指摘しています※3。
 ※3 アンソニー・ギデンズ『近代とはいかなる時代か?─モダニティの帰結』(而立書房)

現代の日本で自己啓発に救いを求めやすい人の属性としては、
大卒の男性、正社員であり、体育会系の背景を持っている人のようです※4。
 ※4 牧野智和『日常に侵入する自己啓発─生き方・手帳術・片づけ』p27-

この調査結果は、少し意外です。

なぜなら、大卒、男性、正社員、体育会系という属性は、
日本の大企業に勤務する人の特徴であり、
貧困とは無縁に思えるからです。

この背景として推測されるのは、少子高齢化により衰退する日本において、
そうした人たちでさえ貧困の危機に直面しているのではないかということです。

貧困に怯える人ほど、自己啓発のカモになりやすいとするなら、
今最も貧困を恐れているのは、
大企業に勤務するビジネスパーソンなのかもしれません。

とにかく、自己啓発のカモになると、
その代償はお金を失うことだけではありません。

親族や友人に対して高額な商品を売りつけようとして、
家族や友達との関係が破壊されてしまったりします。

また、自己啓発に傾倒していることは、
自らが科学的ではないことを周囲に示してしまい、
社会的な信頼を失います。


とはいえ、科学にも限界があり、
科学的であることは万能ではないことを認めないとなりません。

そして自己啓発ビジネスは、得てして目に見えないもの、
科学でも証明できない部分で成立するものです。

目に見えないものだからこそ信じるというのは、
もしかしたら、人間に備わっている本能の一つなのかもしれません。

ただ、現代社会が科学から多くの恩恵を受けており、
科学的なものから乖離すれば孤立することになるのは確実です。

たとえば「書いたことは、現実になる※5」といった非科学的なことを信じて、
真剣に周囲にもすすめている人がいたとしましょう。
 ※5 七夕の短冊や神社に奉納する絵馬など、
    書いたことが現実にならない事例も多数あるため、事実とは言えません。

その人は、同じ自己啓発に傾倒している人(特定のコミュニティー内部の人)
としか付き合えなくなります。
そうなれば、その人は特定の自己啓発の外の世界との接点を失い、
完全に、その自己啓発の世界から抜け出せなくなります。

自己啓発ビジネスを仕掛ける側は、社会不安が増している現代の状況と、
そうした不安を抱えている人間を囲い込む方法をよく知っています。

具体的には一度、自己啓発のカモとして取り込んだら、
その人に対して、外部との深い接触を禁止することが多いのです。

少なからぬ宗教が、異教徒との接触を直接・間接に制限する背景にも、
研究者による同様の考察があります。

現代の自己啓発の場合、こうした囲い込みの手口はさらに巧妙で、
接触を制限するだけでなく、外部の一般人を「わかっていない人々」として
見下す文化の形成を行います。

現代の自己啓発は、他者を見下す機会を増やすことで、
カモとなる人の自尊心を満たそうとするわけです。

裏を返せば、現代という時代は、
承認欲求に飢えている人が多いということなのでしょう。

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『自己啓発をやめて哲学をはじめよう』
(酒井 譲・著) 

 
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