はじめに
経済学は英語で学ぶとしっくりと頭に入ってくる

日本の大学で学んだ「経済学」は
難しいどころか、さっぱりわかりませんでした。

ところが、アメリカで「経済学(Economics)」や
「経済教育(Economic/Economics Education)」を
学び始めると、不思議なことにすんなり頭に入ってきたのです。

日本では完全な落ちこぼれが、
アメリカの公立高校の社会科教師として経済学を、
大学の教員として経済教育を担当するまでになったのです。

日本で教える経済学とアメリカで教える経済学の違いとは
いったいどこにあるのでしょうか?

両者の違いは、経済学を概念である
「経済学の基礎」(KeyEconomic Concepts)を
教える土台としているか、
丹念に教えるかどうかにあるのではないかと考えています。

たとえば、
「基本的な経済問題」の1つに「希少性(Scarcity)」があります。
希少性とは資源に限りがあり、私たちの欲望(HumanWants)は
限りある資源を常に上回ってしまうということですが、
この問題はいかなる社会(Society)も直面する問題です。

日本の経済学の教科書では通りすぎてしまうような
内容かもしれませんが、この基本的な経済問題
「希少性」に関して社会が考えるべき3つの問いがあります。

1.What……どんな商品、サービスが生産・供与されるべきか?
2.How……どのように商品、サービスは生産・供与されるべきか?
3.Who……誰がその商品、サービスを消費・授与すべきか?

この3つの「希少性」による基本的な経済問題に対して
社会は答えを考え続けなければならない、
選択(Choice)」をしなくてはならないということなのです。

なお、経済学上の「Goodsand Services」は
「財・サービス」と訳すことが多いですが、
この本ではわかりやすく「商品・サービス」と訳します。

この経済問題はそれぞれの社会の
ありようを考えるということであり、
小学校や中学校で学ぶ
「社会(Social Studies)」の重要な理解につながるものです。

この概要は私が8年間住んでいた
アメリカ中西部のインディアナ州では
中学2 年生(K-8)の「社会」で学びます。

また、社会では
「どのような商品・サービスが求められ(What)」
「どのように生産し(How)」
「誰に売るべきか(Who)」は、
経営者、起業家(Entrepreneur)に関する
学問である経営学の考え方にもつながっていきます。

経営者であれば常に考えるべきは、
この基本的な経済問題だということです。

このため、アメリカの経済教育では、
その応用編として、「起業家教育」があります。

日本の多くの大学では経済学と経営学では学部も違いますし、
断絶しているように見えますが、
アメリカでは直接につながっているのです。

また、日本では起業家というと、
一攫千金を狙う人たちのように思われがちですが、
本来、起業家は「希少性」による基本的な経済問題に取り組む
最前線の人ということなのです。

「希少性」による基本的な経済問題という視点でこの社会、
経済学を見つめ直すと深く理解ができるのではないでしょうか。

詳しくは序章で考えていきます。

この「希少性」は、近代経済学の出発点です。

アメリカの経済教育の実質的なガイドラインである
Council for EconomicEducation
(アメリカ経済教育協議会:CEE と略します)」のスタンダード
「経済学における任意の全国共通学習内容基準」に収録された20項目の中で、
一番最初にきているほど重要なものです。

CEEのスタンダードによれば、
「生産資源は限られている。したがって、
人々は、自分が欲するすべての商品を手に入れることができない。
その結果、人々はあるものを選択したら、
ほかのものをあきらめなければならない」
とあります。

経済学は「希少性」の学問である
という前提があれば理解が早く進みます。

さらに、この「『希少性』による基本的な経済問題」の上に、
「では選択とは何か?」を考えるために
6コア(The Six Core)経済原則(Economic Principles)
があります。

多くの教師がまずはこの原則を理解し、
生徒たちに教えることを重視しています。

「6 コア経済原則」とは次のようなものです。

1. 人々は選択する
 ……希少性と選択

2. すべての選択にはコストがかかっている
 ……効用と費用

3. 人々はインセンティブ(経済的誘因)に反応する
 ……インセンティブ(Incentive)

4. 経済システムは個人の選択とインセンティブに影響を与える
 ……ルール(Rule)

5. 自発的な取引が富を生む
 ……自発的取引(Voluntary Trade)がより広い選択を可能にさせる

6. 選択の結果が未来に広がっている
 ……意思決定が将来に影響を与える

経済学は「希少性」の学問であると同時に
選択の学問(Studyof Choice)」と言われています。

「1. 人々は選択する」は、
「私たちは手に入れられる以上のモノを欲しがるが、
 生産要素(労働(Human)、土地(Natural)、
 資本(Capital))には限界がある。
 希少性(Scarcity)という経済問題に直面した私たちは、
 最も効用(Benefit)が大きく、費用(Cost)が小さい選択肢を選ぶ」
とあるように経済学の基本がわかりやすく紹介されています。

そのほかにインセンティブ(Incentive)、
自発的取引(Voluntary Trade) と
経済学の基本用語が次々と出てきます。

つまり、「6コア経済原則」とは経済学の基本なのです。

また、アメリカでは、経済学というよりも
パーソナル・ファイナンスという視点での教育にも
力を入れられるようになっています。

パーソナル・ファイナンスとは日本語でいえば、
「個人のお金の管理」でしょうか。

市場経済社会でお金に不自由しない生活を送るのに
必要な知識のことです。

つまり、身の回りの「お金」に関することです。

アメリカでは、1990年代にクレジットカードの利用による
個人債務が1人平均4000〜5000ドルくらいにまで膨れ上がり、
多くの消費者が自己破産寸前にあるという
深刻な状況になってしまいました。

このとき、特に若者の自己破産者が急増することが危惧されました。

そこで、
National Council on Economic Education(今のCEE)は、
国民を教育して賢い消費者にすることを推進しました。

それまでに高校で教えていた経済学の範囲を
パーソナル・ファイナンス(消費者レベル)にまで
広げることにしたのです。

CEEは、幼稚園児から大学生までの
児童・生徒・学生の経済リテラシーを高めることを目的とし、
1949年に設立された非営利組織で、
アメリカにおける経済教育のフレームワークを策定しています。

このフレームワークを基に、
アメリカの高校生向けの教科書が作られています。

しかし、アメリカ全土で採用されるにはいたってはいません。

この理由は、アメリカの教育政策によります。

つまり、日本では文部科学省が定めた学習指導要領が
教科書の編纂に必要な唯一の基準となるのに対して、

アメリカでは教育は州政府の専管事項であるため、
地方政府(州)に児童・生徒の学習内容を決める権限があり、
日本のような全国統一基準はありません。

そこでCEEは、経済教育のスタンダードという形で
一種の学習指導要領を提示しているのです。

現在では、このスタンダード
「経済学における任意の全国共通学習内容基準」に沿った
教科書を全面的に採用している州もあれば、
部分的に採用している州もあります。

すでに、多くの教科書・教材が
CEEの影響を受けているといっていいでしょう。

もちろん、CEEスタンダードの教科書では、
パーソナル・ファイナンスだけでなく、
普通の経済学についても教えています。

現在、アメリカではクレジットカード破綻よりも、
高金利の奨学金が問題になっており、
学生にとってより必要な知識になっているのです。

こうした中、私は2005年から2013年の8年間、
インディアナ州にあるインディアナ大学ココモ校にて
専門の社会科教育に加えて経済教育を担当してきました。

大学の経済教育センターの副所長(所長は経済学者)として
中学生・高校生に向けた経済教育のほかに、
小学校・中学校・高校の先生たちを対象とした
ワークショップを企画・運営しました。

ワークショップではCEEが作成した教材や、
小学校の先生たちには絵本を使い、

「経済学とは何か?」
「児童・生徒たちに経済学に興味を持ってもらうにはどうすればいいのか?」
「生活に役に立つ経済学の教え方とは何か?」

を常に心がけていました。

その1つが「6コア経済原則」というわけです。

本書ではこの「6コア経済原則」の選択の考え方を
家計、企業、金融、政府、貿易という5つの要素で見ていきます。

CEEのスタンダードをベースにした教科書の中には、
本書と同様に、家計、企業、金融、政府、貿易という
5つの主体を「ファイブ・セクター・モデル」として
重要視しているものもあります。

というのも、実際の経済は、
これら5つの主体がそれぞれ影響し合って動いているので、
ファイブ・セクター・モデルを使って説明した方が理解しやすいからです。

最も身近な「家計の経済学」を皮切りに、
「企業(起業)の経済学」
「金融(銀行)の経済学」
「政府の経済学」
「貿易の経済学」
といった流れで章を進めていきます。

ただし、CEEのスタンダードは、
アメリカの実状に合わせて作られているので、
税、社会保障、中央銀行のシステムなど
さまざまな部分が、日本とは異なっています。

今回は日米の違いを考えた上で、
日本の教育現場でCEEのスタンダードを当てはめると
こういう授業になるだろうという前提で、話を進めていこうと思います。

アメリカの高校生が読んでいる経済の教科書
新版 アメリカの高校生が読んでいる経済の教科書
小川 正人・著

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