健康診断は「病人生活のパスポート」

人はどのようにして「病人」になるのでしょうか?  

なんとなく不調を感じて近所のクリニックを受診する。

あるいは、健康診断で異常を指摘されて、
医療機関で受診するよう指導される。

受診の結果、病名を知らされる。  

まさに「病人」が誕生するときです。  

その病名をスマホで検索すれば、
ネガティブ情報のオンパレードです。 

「進行するとこうなるのか」
「手術を受けなくちゃならないかなあ」
「えっ、俳優の○○もこの病気にかかっていたのか! 
すごく痩せてつらそうだったものなあ」

医師から告げられた病名が片時も頭を離れません。 

通勤電車の中吊り広告に載っている
同じ病名が目に飛び込んできます。

今までほとんど興味のなかった
健康番組を見るようになります。  

知り合いの医療関係者に電話します。  

こうして「病人生活」にエントリーしてしまうのです。

「健康診断を定期的に受けていますか?」

こう質問された経験のある方は多いと思います。

わたしも初診の患者さんにはもちろん、
健康相談をされた場合にもよく質問します。  

じつは健康診断に意味があるのは、
がんなどの悪性疾患の早期発見につながるケースだけです。

健康診断を毎年受けていてもがんが見つかることがあります。  

ところが、現行の健診(とりわけ市民健診)は
生活習慣病の発見に重点が置かれています。

健康診断の費用対効果については賛否がありますが、
ここでは議論しません。 

有効な使い方をすればいいのです。  

健康診断で「要再検」となるのを通じて
医療機関にエントリーすることになるわけですから、
健康診断はいわば「病人生活のパスポート」です。 


「お任せします」としか言えない患者

病人生活のパスポートを手に入れたら、
まず信頼できる医師を探さなければいけません。

ネットの情報や雑誌の特集記事、
あるいは口コミなどから「名医」を探すことになります。  

名医を探し当てても、
会うまでにさまざまな関門が待ち受けています。  

大病院にいる名医には
紹介状なしで受診することはできないので、
まずは町の診療所やクリニックを受診したのち
紹介状を書いてもらいます。  

それから、不安を抱え紹介状を握りしめて、
名医の待つ大病院を受診します。  

大病院に行くと、まず待合室にいる患者の多さ、
重症感のある患者さんを見て心が折れそうになります。

それにもめげず、迷路のような廊下を
誘導に従って目的地へ向かいます。

まずは看護師や初診医の問診を通過。

えてして、医療スタッフや研修医が使う言葉には
専門用語が多く含まれています。 

「きちんと答えられているだろうか」と
不安な状態はまだまだ続きます。  

名医に面会するまでに、
ひと通りの検査を受けることになります
(日を改めさせら れることもあります)。

CTスキャンやMRIなど、
孤独を強いられる検査を受けて不安はマックスです。

そして、ようやく名医との面会となります。  

疲労と緊張が最大に張り詰めた状況で、
専門的な説明はほとんど理解できません。 

次の検査の予約や次回診察の日程を示され、
疲れ果てた状態で帰路につくことになります。  

次回の受診日までに病名が増えているのではないか......
そんなときを過ごすことになります。

検査結果が出そろったところで、
次回受診の日がやってきます。

俎の上の鯉(まないたのうえのこい)です。

名医からこれまでのデータに基づいた診断がなされます。

そして最後に治療方針を提案されます。

インフォームド・コンセントの時代ですから、
選択肢は一応与えられます。

しかしながら──

「お任せします」

患者にとっては、この選択肢しかないのが現状です。


病の恐怖にとらわれてしまう理由

ついに、心身ともに
病に支配される生活の始まりです。

家族の協力を得ながら、
病とつき合っていくことになります。

患者にはほとんどなす術(すべ)はありません。

身も心も名医に捧げるのみです。

事態は名医の言う通りに進んでいきます。  

そんななか、メディアから大量に流される
医療に関する情報に敏感に反応してしまいます。

病の恐怖から逃れることはできません。

現代の一日の情報量は一説によると、
明治時代の一年分、平安時代の一生分とも。

自分の身に降りかかった病の情報が
間断なく入ってきます。

新聞のテレビ欄の膨大な情報のなかから、
自分の好きな芸能人の名前が目に飛び込んでくるという経験は
多くの方がしていることでしょう。

しかし、前後左右にあったほかの芸能人の名前は
まったく思い出せないはずです。

病名に対する患者の感覚はもっと研ぎ澄まされます。

余談ですが、
わたしは外来で三〇回以上通院している患者さんに、
「今座っている 椅子の色を、見ないで教えてください」
と聞くことがあります。  

正解はピンクに肌色がかった色なのですが、
正答率はほぼゼロです。

たいてい、灰色とか青と答えます。

患者さんにとっては、
自分の悩みを伝えることに気持ちが向いているので、
椅子の色など気にとめていません。

ある意味当然の現象ですが、
驚くべきことだとは思いませんか。

しかし、もしこの椅子に画鋲や
汚物のようなものがついていたら、
患者さんは座るのを躊躇するでしょう。

無意識に身の危険を避けます。

これが、患者が負の情報収集だけを熱心に
行ってしまうからくりです。  

家族はもちろん、友人知人も皆親切に
情報収集に協力してくれます。

こちらが希望しなくとも......。  

数年前まで、医師と患者は
圧倒的な情報強者と情報弱者の関係が普通でした。  

今はどうでしょうか。

必ずしもそうとは言えません。  

理由はインターネットの普及です。  

過去一〇年でわれわれを取り巻く情報量は
どのくらい増えたと思われますか。  

総務省の報告では、なんと五六一倍です!  

この情報の大波を乗りこなせるほど、
果たして人類の能力は進化しているのか、

はなはだ疑問ですが、
襲ってくる大量の情報は逃れられない事実であり、
今後も加速度 的に増大していくことでしょう。  

この状況を医療に当てはめると、

予防としてどのような準備をすればよいのか、
病を実際に誰に相談するのか、
どのような治療を選択すればよいのか、

とても決めにくくなっているということです。
病は口ぐせで治る!
『病は口ぐせで治る!』
(原田文植・著)


※書籍の詳細を見たい方は、
 上の画像をクリック!

1位目指してがんばってます!
ポチっと応援お願いいたします!